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ローラン・ビネ賛

『言語の七番目の機能』もよかったが……

2年半ほど前に、話題になっていたローラン・ビネの『言語の七番目の機能』(高橋啓訳、東京創元社、2020)を読みました。ロラン・バルトの事故死を、「事故ではない」としたところから、フランス現代思想(80年代ごろまで)の要人たちを登場人物にした、壮大なホラ話というかパスティーシュというかが展開するという、あっと驚く作品でした。これは圧巻でしたね。

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そのときに、作者のビネのほかの作品として紹介されていたのが、『HHhH』でした。そのうち読もうと思って、アマゾンのリストに入れておいたのですが、ずっと後回しになっていました。で、今年の春ごろ、この作品が文庫化されたことを知りました。電子本で読むので、文庫とかになったところでレイアウトは変わりませんが、価格が手頃になったのはとてもありがたいことです。で、ようやく読むことができました。

『HHhH』!

こちらはパスティーシュではありません。歴史小説です……ですが、凡百のものとは圧倒的に違っていました。邦訳が出たのは2014年ですので、いまさら言うのもナンですが、普通の歴史小説よりもはるかに面白い作品になっています。

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扱われている歴史的事象は、ナチスのゲシュタポの長官だったハイドリヒが、イギリスに亡命していたチェコの軍人らによって、1942年に襲撃・暗殺された事件。この作品の語り手は、かなり積極的に「語りそのもの」を問題視しています。歴史的事象を小説に落とし込むことの困難・課題・挑戦について、実に真摯な考察をめぐらしていきます。

それが、史料にもとづく歴史的事象の展開と、どこかオーバーラップしていくのですね。二つの次元、二つの物語が、見事に融合し、とくにクライマックスの襲撃へと一挙に流れ込んで行く様は、実に圧巻です。これがデビュー作だなんて、すごすぎます。

訳者あとがきで示されているように、これ、どこかクンデラやヌーヴォーロマンなどの衣鉢を継ぐものにも見えますが、それらよりも「今風」といいますか、はるかに取っつきやすい作品でもあります。もうメタレベルとか文学的な仕掛けとか、そんなことを考えるなんてどうでもいい、ひたすら人を引き込む語りを味わえばよい。そんな感じですね。

ちなみに、タイトルの『HHhH』は、Himmlers Hirn heisst Heydrich(ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる)の頭文字をとったものだとか。作者ビネは作中で、これとは別の題名を挙げて、もしその題名になっていないなら、編集者が認めなかったからだ、みたいな話を披露しています(笑)。

次は『文明交錯』へ

やはり今年の春、新刊で『文明交錯』が出ました。未読ですが、こちらも楽しみです。今度は歴史改変ものとか。ますます目が離せません。