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『新・哲学入門』も入門にあらず?

「事物自体ではなく「事物を定立するもの」、つまり生きものの「欲望‐身体」という力、そしてこれによって定立された世界(生の世界)、これだけが真に存在するものではないだろうか。」

—『新・哲学入門 (講談社現代新書)』竹田青嗣著
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『新・哲学入門』を見てみました。竹田青嗣氏の主要著作といえば、『欲望論』(2巻、講談社、2017)がありますが、この現代新書はそのエッセンスをまとめたもの、と言えそうです。上の引用が同著者の立ち位置を示唆してくれています。

各節が断章のようになっていて、これを組み替え直したりしたら、ロラン・バルトの断章形式のテキストみたいになりそう……なんて妄想も覚えたりしますが、とにかく、話がいい感じのテンポで進んでいきます。ニーチェやフッサールに準拠し、それらの構えをいわば拡張して、人間性の存立的規定・価値判断の根底としての「欲望」を描き出しています。もちろんほかの個別の思想家についても、その描写過程で触れています。

読みやすさやとっつきやすさなどからすれば、確かに入門書と呼んで差し支えないとは思いますが、基本的に著者本人のオリジナルな議論が前面に出ないわけにもいきません。その意味では、これは一つの総合的な論考でもあり、その観点からすると、単純な「入門」というのとは別筋のもの、という気もしてきます。改めて思うに、哲学書での入門編というのは、構成や議論の采配、目配せ、さじ加減など、とても難しいものなのかもしれませんね。