kindle unlimitedで、『幽幻廃墟』(星野藍、三才ブックス、2018)という写真集が出ていました。これはいいですね。旧ソ連の未承認国家などを中心に、廃墟と化した様々な建造物をめぐっていくというものです。
以前、『スポメニック』(旧ユーゴの巨大建造物)というガイド本を取り上げたことがありますが、こういう廃墟写真は、変な言い方ですけれど、一見すると何やらひっそりとしたたたずまいに、どこか心癒やされそうな印象を醸してくれます。人がいなくなったあとも続く、悠久の時間の端緒に触れる思いがするからでしょうか。でも、そうとばかりも言っていられない、複雑な感情も次第に呼び覚まされます。
この『幽幻廃墟』では、まさに紛争の地の残骸が数多く取り上げられています。ウクライナもそうですが、アゼルバイジャン内のアルメニア系住民の飛び地、ナゴルノ・カラバフもそうです。この後者では、つい数週間前、アルメニア系住民が大量に国外脱出を果たし、新たな廃墟が「増殖」してしまったばかりです。
「増殖」という言い方は適切ではないかもしれませんが、廃墟の静けさやそのたたずまいには、戦と破壊の記憶が刻み込まれているわけで、そのことが内的に広がってくるような、そんな焦燥感のような、名状しがたい感覚を覚えます。
今また、パレスチナとイスラエルの戦争が始まっています。廃墟は「増殖」することをやめないようです。まるで、いつか地上全体がそうした廃墟に覆われてしまうまで、それは続いていくかのようです。